[ヨーロッパスタジオ]>[本多、すべてのバーで]






本多:じゃあ、4杯目。
永野:かんぱい。ちょっと、ディープな夜になってきたね。
本多:ね。そうそう、今日はね、永野さんが「最高の演技だ」と思う、ある映画のシーンを持って来てもらったので、みんなで見ようと思うんですけど。そもそも、どういうところに惹かれるんですか? その、「演技」っていうのは。
永野:やっぱり・・・日常では体験できないところに行ってる姿を、見るわけじゃないですか。
本多:それは、“日常”を演じてる場合でも?
永野:それはだから、スクリーンでしか見れないところに役者さんは、いて・・・ある物語で、みんなが普段感じ得ないような感情になったりとか、そういうことで。
本多:ああ、なるほど。
永野:というか、いかにフィクションを成立させるか、というところで役者って勝負しないといけないんですけど・・・やっぱ、ほんとに「没入度」っていう話になると思うんですよ。どれだけ「役」の中にいて、「役」として感じてお芝居をしてるかっていうところ。そこに僕はやっぱり、演技をする楽しみとかを見いだしてたな、とか・・・。
本多:あ、自分が好きなことを、より強くやってる人に惹かれるっていうことですかね。
永野:うんうん。「そっか、ここまで役に入りこめるのか」っていう。「人間はこんな形相になるのか」とか。そういうのをやってる人を見ると、役者をやるモチベーションも上がるし。
本多:僕、この前あるドラマの撮影があったんですけど。そこで、まあたとえば“永野”っていう役がいて“本多”っていう役がいて、2人は先輩後輩みたいな上下関係やったんですけど。それでセリフ合わせとかしてたときに“永野”役の人が「“本多”は“永野”のことを、どう思ってるんですかねぇ?」って聞かれて。
永野:ああ、何気なくね。
本多:はい。そこで、ドキッ!! として。「そんなこと、全然考えてなかった!」と思って。
永野:それは、基礎でしょう?
本多:基礎なんですけど。
永野:基礎を、おろそかにしてたってこと?
本多:そう。で、「ま、あの、嫌いじゃないけど、好きでもない感じ、かな・・・」みたいなことになって(笑)。
永野:そこで、語れたほうがよかった(笑)。
本多:語れたほうが、かっこよかった! だから、やっぱそれくらい考えなきゃダメだなって。没入度で言うとね。
永野:けど・・・ほんっとに分かんないよ、これは。考えすぎてもう、ダメなパターンもあるから。その場で感じることを、どんだけ記録させるかっていう、仕事でしょ?
本多:ああー、そっか・・・。
永野:だから、今から見ていただく映像とかは、どうやって演じてるのかなって。
本多:なるほど。ではまず、DVDを見ていただいてね。
永野:これね、黒澤明監督の、1963年の『天国と地獄』っていう作品で。これで、見てほしいのは山崎努さんの演技なんですけど。
本多:山崎努さん。
永野:うん。これ、おおまかにあらすじを言うと、犯人の山崎努さんが、裕福な暮らしをしている三船敏郎さんに、腹を立てていて。住んでる部屋から見える所に三船さんの豪邸があって、それを見てすごい嫉妬してるんですよ。で、子供を誘拐して、身代金を要求するっていう。それで、結局捕まっちゃって、死刑も決まっちゃう。で、その面会の部屋に三船さんを呼び出して「何でこういう犯罪を犯したのか」ということを吐露するというようなシーンが、ラストにあるんですね。そこの、演技。
本多:山崎努さんの、演技。
永野:そうそう。弱冠、20代の演技。5分くらい。
本多:じゃあちょっとみんなで、見ましょうか。

(みんなで、そのシーンを鑑賞)

永野:・・・というね。以上です。
本多:あっ、これ、ほんとのラストシーンですか?
永野:ラスト。ほんとのラストシーンです。ラスト見せちゃってごめんね、見てない人に。
本多:(笑)!
永野:なんていうんですかね、やっぱ頭でっかちになってなくて、ガッと感じるものもありつつ、すごく、線で繋がっていて、劇性をちゃんと感じさせてくれるというか。ここなんですよ。ここ(心)が、ちゃんと動いてるかというとこで。
本多:ねえ、最後のとことか。
永野:(柵を掴んで、三船敏郎に凄む場面で)火傷したらしいですよ。照明で、柵が熱すぎて。
本多:ええ!! 
永野:それにね、すごい淡々と喋るじゃないですか。理性もありつつ、死ぬことの脅えもありつつ、自分のことを語りつつ、っていう。すごく複雑な感情を伝えてるなっていう。
本多:へえー。この役やってみたいとか、あります? もしリメイクとかあって。
永野:ねえ! そう、もし台本渡されて、ああいう風にできるかなって考えたら「できないかも」って思って。あそこまで自分の感情を跳ね上がらせたりとか、できるんだろうか、って。
本多:でもけっこう、役者の永野さんの魅力って、感情の起伏が・・・僕が思うにですけど、その振り幅が大きいところとか、それが動きにも出てたりとか、そういうところが永野さんの魅力やと思うんですけど、だから、ああいうのとか・・・いいんじゃないですか?
永野:いや、いいですよね、あんなんやれたら、いいですよね。でも、この作品、ほんとは、アレらしいですよ・・・全部ウィキペディアで知ったことですけど(笑)。ほんとはこれ、ラストシーンじゃないんですって。
本多:えっ。
永野:ほんとは三船敏郎さんと、刑事の仲代達矢さんとのシーンで終わるはずが、芝居が凄すぎてこれで終わらしたっていう。
本多:ええー。すごいっすね。・・・ウィキペディア、すごいっすね。
永野:ウィキペディアが(笑)。いや、「山崎努」が、すごい。
本多:ああ、そっか(笑)。
本多:でもね、これもウィキペディアなんですけど『UDON』っていう映画で永野さんが、階段落ちをいきなりするっていうシーンがあったでしょう? それ、ウィキペディアに載ってたんですけど、当初、現場でまわりで見てた人は事故やと思った、って。本番でいきなり、階段をズルズルって落ちていったんですよね?
永野:そうそう。
本多:それは、何なんですか? 「やってやろう!」っていう?
永野:・・・そういうのがね、腹立つんです、自分で。「ウケ狙いだな」って。
本多:あっ、ウケ狙いなんですか?
永野:「絵的に、面白いな」っていうことです。客観的に。冷めてるんですよ。僕はね、ほんとに役者としての喜びを感じてるシーンではないし、あれは。
本多:でも、すごいじゃないですか。突発的に。瞬発力っていうんですか? それこそ今の、山崎さんくらい。今の話聞いてて、僕は通じるものがあるんじゃないかなと。
永野:そう?
本多:上か下かの違いだけで(笑)。
永野:天国と地獄の(笑)。だから何か、自分の中で“媚びてる”っていうかね。ちゃんと舞台上で生きていたい、ということもあるし・・・。
本多:でも、いきなり本番でそれをやる、っていうことは、“媚びる”っていうか・・・あっと思わせたいとか、楽しませたいとかっていうことでしょう? 
永野:そう。
本多:それはべつに、“媚び”ではないんじゃないですか?
永野:そうなんかな。分かんない。なんかしばらく、そういう風な発想でいるなぁっていうのが、もの足りなさを感じてる。
本多:でもそれってね、役者だったらみんなの前でやることですけど、作家業に関して言ったら、ひとりの作業だったりするじゃないですか。それは、自分をどんどん突きつめていく作業だったり、するんですか?
永野:そこはほんとに、自分の世界をそのまま、再現できるから、大きいよね。
本多:何でしたっけ、あの・・・。かた・・・。
永野:「語られなかった言葉たち」?
本多:(笑)。
永野:そこに、帰ってくるけど(笑)。自分の言葉をたくさんリリースできる場として、作家業はすごく大きいなって思います。
本多:すごく合ってるのかも、分かんないですね。
永野:そうなのかなぁ。
本多:でもね、今年の夏に『ムロ式』っていうお芝居をやったんですけど。今年の春に、永野さんがなるみさんとやられてた『ケセラセラ日和』の時は、僕は出てなかったので、その『ムロ式』で初めて、永野さんが書いたお芝居に出て。
永野:うん。
本多:すごい細部まで、こだわりがあるじゃないですか。なんかもう「全部、自分を出す」っていうのは、すごい納得しましたね、今。
永野:へえー。
本多:だから、自分の中の、細部まできっちりできているものを・・・。自分の頭の中にあるものを、出すんだな、っていう。
永野:そうなのかもね。確かにそれは、そうしてる。
本多:その、作家をやることによって、役者「永野宗典」に変化はあったんですか?
永野:・・・これはたぶん、まだ本当に・・・このインタビューがゆくゆく、僕にとって「あ、こういう時代があったな」っていう振りかえるものに、なればいいなと思うんですけど、今たぶん作家をやったり演出をやったり、っていう自分と、役者っていうのがうまく溶け合ってないんですよ。でも、そうやって考える発想とか演出する技術とかそういうものも除々に、経験として培ってきてるんですけど・・・。やっぱ、(自分が作、演出する作品に)自分も役者としても出るじゃないですか? そこと、うまく溶け合ってないから、なんかどっか冷めてる自分がいる、という・・・。
本多:じゃあ1回、演出だけとか、作家だけとか、やってみたらいいんじゃないですか?
永野:ああ、そうか・・・。でも・・・役者が好きなんですよ、本当は。
本多:あ、じゃあ(笑)・・・どうしたいんスか!
永野:(笑)。
本多:でも、永野さんがこのカフェ・ド・念力で、10月24日にやる「不条理劇場」ってね、ベケットの・・・ベケットは『ゴド―を待ちながら』っていうすごい有名な、作家なんですけど。だいぶ昔の人ですよね?
永野:そうですね、もう半世紀くらい前の。
本多:その人の書いた台本を、やるんですよね?じゃあ、来月とかその人の台本で、演出だけして・・・。
永野:ちがう。出たいのよ。
本多:(笑)!
永野:やる楽しみを、感じられる状態に、なりたい。演出術とかと、ちゃんとかみ合わせた表現というものを、ちゃんと作り上げていきたいなっていう。
本多:だから、「演出術を得るために、出ない」っていうのを、提案してたんですけど。・・・「出たい」と。
永野:出たさが、あるからね。
本多:出たがりだと。そっか。・・・もう、勝手にやってくれっていう話ですよね(笑)。
本多:じゃあ、今後はやっぱその、作家を?
永野:やっぱまだ、発展途上の中にいてね、何かもっと自分らしい、自分が楽しいと思える表現を突きつめていきたいなって。
本多:「良い表現」ですね!
永野:「良い表現」! 結局はそれに帰るんですね。
本多:「永野ひろし」が言ってた。
永野:うまいね、インタビュアー。戻したね。
本多:(笑)。でも、今はそれが、出来てないんですね?
永野:できてない。嫌い。今の自分の、表現が。
本多:ええ! 嫌い? まじで?
永野:そう。何かすごいずっと思ってるの。
本多:そう言われちゃったらね、今後永野さん見ても「嫌いやわー」ってなりますよね(笑)。
永野:そういうことでしょう。もう、赤裸々に語るよ、僕は。
本多:赤裸々。
永野:生ぬるいことじゃ済まされないでしょう? 記事は。
本多:「記事」って(笑)。
永野:とりあえずこの記事は途中経過の記録としてね。僕はこれから時間をかけて、何か見つけていきたいと思う。
本多:じゃあ、そんな永野さんを見守りつつ。というわけで、かなり、長々とやっちゃいましたけど。ありがとうございました!
永野:ありがとうございました!

(10月中旬、収録)

―収録を終えて―
はじめての「人前で」ということもあり、お客さんをかなり意識してました。でも逆に人前だからこそ思い切って聞けることもあったりでなかなかに興味深い話が聞けて良かったです。
あと、人前でお酒を飲むと酔いがまわるのが早いというのも分かりました。
(本多力)