黒木祭まで、残り約3週間。
先週、『知恵光院雀鬼3』の編集作業を終え、東京から戻ってきた黒木。
また、大見も、関西での仕事のため、京都に来ていた。
そうして、黒木組広報担当・柏もまじえ、京都・ヨーロッパハウスにて、
この「黒い神輿を担ぐやつら」の収録を迎えた。
大見 「…黒木さん、ちょっと謝らないといけないことがあって。」
黒木 「えっ、マジで。ちょっと待って。何?」
大見 「黒木祭なんですが、俺、たぶん司会できないです。」
黒木 「えー、ちょっとちょっと。どうする? 柏くん。」
柏 「困りましたねえ、司会、てっきり…。」
黒木 「そうそう。先週話して、大見くん『やろか』ってなってたから、
今、スゴいテンション上がってて、やる気なんかな、と思ってたのに。」
大見 「いやー、イメトレしたんですよ。で、やっぱ、俺には無理なんかな、って。」
黒木 「壁が見えた?」
大見 「こないだの、SSMFみたいになっちゃうんじゃないかなぁ、って。」
黒木 「でも、あのとき、巧みな話術だったんじゃないの?」
大見 「いやあ。ワークショップなら、いつでもできるんですけどね…。」
大見康裕、先日の「SSMF4」にて、トップバッターとして作品を上映。
そこで彼は、司会者とともに、壇上でトークを繰り広げた
しかしながら、普段、表舞台にでない彼にとって、客前、しかも、
一番手というプレッシャーは、なかなかに拭い去りがたいものであった。
のちに、彼は述懐する。「あの時は、自分の映画のよさを、半分も語れなかった」と。
しかも、今回の黒木祭では、あろうことか「司会」だという。
一度は引き受けたものの、そのプレッシャーたるや、相当なものであろう、
と、大見は考えていた。
そうして、1週間、悩んだ末の、「辞退」という決断。
それは、大見にとって、苦渋の、そして、遅すぎる選択であった。
柏 「どうしましょうか…。」
黒木 「もう、司会ナシでやる?」
柏 「いやー、それはちょっと。誰かたてた方がいいですよ。」
黒木 「『雀鬼』の上映だけじゃダメ? 司会たてないとダメか…。」
柏 「そうした方がイイですよ。」
黒木 「大見くん、なんで今になって、司会断ったん?」
大見 「いやあ、俺、正直、お客さん、10人ぐらいだと思ってて。
身内しかこないだろうな、と思ってた。」
黒木 「まあ、それは、俺もビックリした。情報、何にも出してないのに、完売とかなってて。
勇気のある人ばっかりですね。」
大見 「その、お客さんの気持ちに、応えることができない、って感じて。」
黒木 「そっかぁ。司会、どうしよう?」
そう。なんと、チケットは、いつしか、完売していた。
約40人という、慎ましいキャパのせいもあろうが、
黒木の魂の波動は、確かに、お客さんの胸に届いていたのだった。
ただ、それだけに、お客さんの思いの総量を
司会者は、丸ごと受け止めないと、いけないのだった。
そんな腕の立つ司会者は、残念ながら、黒木組にはいない。
ここへきて、逆境に立たされる、黒木組。
万策尽きたか、と、思われたそのとき、一同の頭に、ある男の名前がよぎった。
柏 「司会、角田さんどうですか?」
黒木 「はいはい。」
柏 「今年のカウントダウンイベントで、お客さんの前でプレゼンして、
すごく評判もよかったみたいですし。」
黒木 「そうやね、カウントダウンでは、祭りっぽい男やったね。」
柏 「そして、こないだのSSMFでも、映画の中で、ラジオDJをされてましたしね。」
大見 「あー、そうでしたねえ。」
黒木 「そうそう。上映のあとのしゃべりも、司会のはるきっちゃん(中川さん)と
上田くんよりずーっとしゃべってて、おもしろかったわ。」
柏 「ええ。」
黒木 「角ちゃん(角田さん)に頼む?」
柏 「っていうのもありますよね。角田さんやったら、
うまく(司会を)まわせるんじゃないかなと思うんですけど。」
大見 「俺よりか、うまいと思いますよ。」
柏 「まあでも、本当は、大見さんがよかったんですけどね。」
大見 「あー、じゃあ、ダブル司会にします?」
柏 「SSMFの感じで。」
黒木 「いや、でも、ここは、大見くんが認めた男、角田貴志に。」
大見 「そうですね、オンリーで行きましょうか。」
黒木 「頼もうか。」
急浮上した、角田という、新たな、黒い神輿の担ぎ手候補。
しかしながら、角田はこれまで、黒木組と、一切の関わりをもっていない。
なにせ、SSMFにおいて、誰一人、自分の作品に関わらせることなく、
すべて、自分ひとりで、出演とスタッフワークを、まかなってきた男である。
そんな孤高の男が、はたして、黒木組という、血の濃い関係性に、
混じることができるのだろうか。
奇跡的に、うまく化学反応が起こればいいのだが…。
柏 「角田さんに、頼みましょう。ただ、断られる可能性もある、ってことですから。」
黒木 「断ること、あるかなぁ。」
大見 「それは、あるでしょう。」
柏 「黒木色に染まりたくない、っていうのはあるかも。」
黒木 「そういえば、角ちゃん、あんまり混ざることがないからな。」
大見 「っていうか、まだ、黒木作品にも、出てないですからね。」
黒木 「まあでも、逆にイイかもしれんなぁ。色が違うから、司会できそう。
…なんか、見えてきた。
」
柏 「じゃあ、依頼してみましょう。」
大見 「もし断られたら、そのときは、俺やります。」
黒木 「やってくれる?」
大見 「ええ。」
柏 「じゃ、とりあえず角田さんにオファーして、ダメだったら、大見さんで。」
黒木 「そうやね、ダメやっても、炎のストッパー・大見くんがいるから、大丈夫。」
柏 「これけど、角田さん、オファーされるより先に、この『黒い神輿〜』で
話題に出てたら、ビックリするんでしょうね 。」
黒木 「これ読んだら、勝手に進めとるなぁ、ってなるんやろうなぁ。」
大見 「角田くんも、神輿を担ぐわけですね。」
黒木 「そうやなあ。これで角ちゃんが司会、ってなったら、
ますます、来ない人、後悔するんやろうなぁ。」
柏 「角田さん、是非、これ見て『やります!』っていうメールを送ってきてくれたら、
いいですねえ。 」
あまりに突発的なキラーパスのため、本人にはオファーの電話がしづらい。
そこで、なんとか間接的に伝わることを願う、柏であった。
本番3週間前にして、チケット完売、という、この未曾有の盛り上がりが、
どうにかディスプレイ越しに、角田に伝わればいいのだが。
黒木 「そうそう、チケット前売り分、めでたく完売したけど、どうなん? 採算とれてる?」
柏 「まぁ、黒字ではいけそうですけど」
黒木 「新しいハードディスクは買える?」
柏 「大丈夫だと思います。」
大見 「モニターは?」
柏 「それは、無理ですね。」
黒木 「あー、そうんなんや。俺、また欲しいものができたんやけど、ブルガリの時計。」
柏 「…なんぼなんですか?」
黒木 「50万くらい。」
柏 「いやいや、それは無理でしょう。」
黒木 「金、欲しいねんなぁ。」
大見 「金、欲しいですよね。なんか、他に売れるものとかあったら。」
黒木 「前、トレカいってたけど、進んでるの?」
大見 「トレカは、まあまあやってますよ。」
黒木 「やってるんや。水面下で。」
大見 「やってますよ、ちょっとずつ、キャラクターを(画面上で)切り抜いてますよ。」
黒木 「楽しみやな、それも。」
チケット完売による有頂天ぶり、そして増長。
思わず、ひところのブランド好きが、顔を出してしまう黒木。
その金銭感覚は、麻痺し、いまや、皮算用の状態である。
黒木の、足元を見失うあまりの速さに、柏は、一抹の不安を覚えていた。
黒木 「いやー、1,200円のチケット、買ってくれるもんやなあ。」
柏 「ありがたいですね。お客さんにも神輿を担いでもらってますね。」
黒木 「これはちょっと、気合い入れなあかんなぁ。
まだ、こっちはなんにも決まってないのになぁ。」
柏 「いやいや、そんなことはないでしょう。」
大見 「正直、何を上映してもいいわけじゃないですか。上映しなくてもイイっていう。」
黒木 「それも、できるなぁ。」
いくらなんでも、さすがにこれは暴言である。
感謝の念を忘れ、興行主としての意識が欠如しはじめた、黒木の堕落ぶりに、
怒りをこらえきれない、宣伝担当・柏。
黒木 「いやー、決まったね。もう、こっちはなんにも考える事ないな。」
大見 「そうですね。」
黒木 「ちょっと、待って。今、柏くんがギロッてこっちを見た。」
大見 「…まぁ、『雀鬼1〜3』もあるしね。」
黒木 「もう、ちょっと。今、柏くんを見る事ができへん。もうちょっと考えてや、って。」
柏 「ね。」
黒木 「まあ、ほら、おいおい決めていこうかなって思ってて。
まだ、編集が終わってないから、ね。」
柏のただならぬ鬼気に気づき、ようやく正気をとりもどした黒木。
よくも悪くも、このイノセンスな心の移ろいこそが、黒木正浩35歳の魅力であり、
また、この互いを補いあうチームワークこそが、黒木組のかけがえのない財産である。
黒木 「これで、角ちゃんがOKしてくれたら、全員、Macユーザーになるわけやなぁ。」
柏 「そうなりますね。角田さんも、Macユーザーだし。」
大見 「じゃ、Macユーザーが総出演、ってことで。」
黒木 「もう、Macと黒木組は、切っても切れないね。」
大見 「なんでか、切れないですね。運命なんでしょうか。こうなったら、スポンサーがappleで。」
黒木 「なってほしいなぁ。appleの人が、観にきてくれたらいいのに。」
大見 「じゃ、第2回黒木祭は、appleさんサポートで。」
柏 「そこは、勝手に決めても…。」
黒木の黒と、appleの白。その2つは、いかにも、遠いように見える。
しかしながら、かつて、SSMFでは、番外編上映会を、apple storeで
開催させていただいたこともあり、
そう考えれば、あながち、遠い夢でも、ないように思えた。
少なくとも、黒木組の多くはMacユーザーのため、この夢の実現を、切に願っていた。
とはいえ、目前に迫る、黒木祭を成功させなければ、夢も途絶える。
今は、何をおいても、黒木祭の中身を、固めないといけないのだった。
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