#29 丸勝ラーメン

深夜2時。
シャッターの閉まった三条商店街。
ランナーもこの時間は走っていなくて、大きなゴミ収集車が通り過ぎていく。
南に下ると四条大宮。
24時間のスーパーやファーストフードを横目に、大宮通りをさらに南へ。
五条大宮のラーメン屋も掃除の仕上げ作業。
もっと南へ。
スナックの看板がチラホラ。
それも途絶えて、心細くなってきた頃、ポッと灯った、赤ちょうちん。

店の前に立ってみると、定食のメニューがずらり、深夜3時まで営業という文字。
中に入るとスナックのママらしき人とそのお客さんが、瓶ビールをついだりつがれたり。
そして、お客さんから貰ったビールを飲みながら、
「いらっしゃい、兄ちゃん」と迎えてくれるのがこの店のお母さん。
ここは、丸勝ラーメン。

と長々書きましたが、僕が遅くまで編集して、牛丼じゃないし、近所の24時間の定食屋じゃないし、
ちょっと打ち上げ気分だし、お腹もめちゃめちゃすいてるし、でもしつこくない方がいいし、など
全部をかなえてくれるのがこのお店です。

創業38年・京都駅に屋台を出していた頃から変わらぬ味。
澄んだスープに秘められた鶏の出汁と醤油味の中華そば。
僕はいつも唐揚げ定食。だけど中華そばがついてきます。
唐揚げは手作りの揚げたて。小鉢は2つ、この日は高野豆腐としじみの佃煮。
これも抜群に美味しい。
おふくろの味を堪能しながらメニューを見ていると、
今日のさかな『キズシ』『焼きさば』『焼さんま』
今日のおそう菜『ほうれん草バター』『焼きしいたけ』『わかさぎなんばん漬』
わかさぎなんばん漬が出てくるラーメン屋、限りなく定食屋に近いラーメン屋。それが魅力。そして瓶ビールを飲みながら。

現在2時半、お店の電話が鳴る。
「今から4名?はい、お待ちしてますー!」
お母さんは電話を切った。
またもや、西院方面から夜の仕事終わりでお客さんが来るらしい。
さっきのスナックのママとお客さんは手をつないでどこかへ行ってしまった。
喧噪のほんの少しの時間。
「あの子元気にしてるか?」
とおばちゃん、あの子?とは昔一緒に住んでいた古藤くんの事だ。
「テレビ出てけぇへんかって見てんのやで」
その一回のことをおばちゃんは絶対に忘れない。
確か古藤くんと夜中に一回だけ食べにきた気がする。
「元気やで、まだもうちょっとかかりそうやけど」と僕。
すると、中から出てきたのはお母さんの旦那さん、お店の大将。
人が良さそう、を体現した見た目。
「お父さん、また兄ちゃんが遠くから来てくれたよ」
と言われると、なんだか変な気持ちになる。
「兄ちゃん↑」でなく「兄ちゃん↓」という発音で僕を呼ぶ。
「最近なに頑張ってんの?」といつも聞かれる。
このお母さんに報告してやっと仕事が終わったような、そんな不思議なお店。
いつも「親孝行できる時にしときや」と言われて店を出る。
でも、今日は言われなかった。
帰るときに、50歳くらいの男女のにぎやかな団体が入ってきたから、
お母さんはそっちの対応をしなきゃで。
赤ら顔の男性はホステスさんの頭に暖簾が掛からないように、
かき分けてあげていたけど、段差につまづいた。
「親孝行できるときにやで」
にぎやかな団体の隙間から声が聞こえてきた。
ここはラーメン屋だけど、ふと一息つける深夜食堂。

(2016.4.9)

京都案内人:西垣匡基

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[丸勝ラーメン]

場所:京都市下京区大宮1丁目565−4

※定休日等詳しい情報については各スポットへお問い合わせください。

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