[ヨーロッパスタジオ]>[特別対談 天野天街×上田 誠]

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天野
今回の舞台(註:ヨーロッパ企画『ボス・イン・ザ・スカイ』。天野はこの対談の直前に観劇)は客席で観ていて、すごく視点が錯綜する感じが面白かったですね。
上田
ああ、ありがとうございます。今回は円形舞台ということで、すごく客席のことを意識して作ったんです。円形が面白いのは、舞台の向こうに別の観客がいるのが見えると、何となく自分も「向こうのお客さん」の気持ちになって観てしまうことなんですよ。「あっちの人はどんな感じで観てるんだろ?」っていう意識や想像が、自然と生まれる。
天野
そうそう、客の意識の視点の方が、勝手に移動してくれる。
上田
そうなると、観てるのが完全に自分1人だけじゃなくなるんですよ。他のお客さんに乗り移って…あるいは舞台上の人物の誰かの視点に、乗り移って見てる時もあったり。
天野
幽体離脱的な視点が生まれるという。それはすごくね、観てて感じました。
上田
物語としては、舞台美術が底が見えない構造なんで、いつまでも落ち続けるような…「どこが底やねん!」っていう感覚を、特に最初の方で作りたかったんです。たとえばAの人が変なことをして、Bの人が「それおかしいだろ」って突っ込んだとしても、その「おかしい」という感覚すら裏切られてあやふやになるというか。もう前半は、延々その意識でやってました。
天野
全体的にすごく不思議でシュールな感じになってるのは、そういう感触がちゃんと出てるからなんですよね。だからロックフェスに来た女の子が塔を降りていってから、上に残ってる人たちが割と早くその姿を見つける場面は、すごく夢っぽい感じがしました。あの舞台だけ観ると本当に底なしに見えるから、そのギャップで不思議な気持ちになる。
上田
あれは一応実際の高さを想定して、降りるのにかかる時間もちゃんと計ったんですけどね(笑)。でも最近僕は、劇中の人物の名前も付けなければ、具体的な年齢も設定していない。それを付けちゃったら妙になるというか、決めないことが恐らくは正解みたいな。それと一緒で、あの塔も具体的な高さを設けない方が、多分正しい。
天野
うん、そうそう。唯一外部から来たあの女の子だけが、年齢とかが確定している。
上田
あの浮かんでるような空間と、現実の世界とをつなぐ役割というか…要は風船の糸みたいに、ある種の長さを規定する存在みたいな感じで設定しましたね。
天野
それであの女の子を、塔から逃がさないようにする手だてってどうするんだろう? とか、最初思ったのね。あれ以外にも「絶対ここから話が動かんくなるな」ってところが数ヶ所あったけど、そのたびにちゃんと話が進んで、うまいことやりよるなあって(笑)。だから今回はスリリングでしたね、観てて。
上田
そうなんですよ。本当に今回は「事が起きた」後のお芝居だから。ドラゴンを倒す、という劇的な所からいきなり始まってるので、そこからだんだん事が動かなくなってくるんです。大きな事件が起こった後って、どこに向けて話を進めたらいいのかわからなくなってくる。これがすごく、難しいわ実りがないわで(笑)。
天野
相当難しいことに挑戦してるな、っていうのはよくわかりましたよ。
上田
しかも僕は、いつも具体的な舞台装置を考えて、そこを拠り所にして脚本を作っていくんですが、今回の舞台には上下左右の壁がない。ただそれだけで、空間の中に言葉を置いていくという作業が、本当にしんどかったんです。
天野
縦の関係しかないからねえ。
上田
特にオープニングがね。始めの一行を書いてから、次は何をしたらいいのか? というのがわからなくて、その次の行を書くのにすごい汗だくになった。そんな体験は、今回が初めてですよ。ちょっとした手すりがないだけで、作劇までもがしんどくなってくる。
天野
でもやっぱり上田さんは、縛りが多い方が盛り上がるタイプでは、絶対あるわけですよね?「こういう状況でしかできない」というのがあればあるほど、っていう。
上田
そうですそうです。例えば指一本しか動かせないとか…。
天野
の方が、いろいろアイディアが出てきそうな。
上田
でもその方向に行きすぎると、あまりよろしくないというか。劇団性として、僕らはもうちょっと賑やかなことをした方がいいかなというのがあって。
天野
でもそんな状況でどれだけできたかっていうのが、自分の実りになってくるしね。
上田
「マイナスから始めさせられてる」っていう、悲劇のヒーローとしてできる…っていう言い訳が(笑)。でも結局は、自分で勝手にそういう状況を作ってるだけで。
天野
自分で自分を縛り付けてるという。自縛だよね(笑)。
上田
ただ今回の芝居で言うと、僕は今年で30歳になるので「20代最後のお芝居だな」と、何度も考えてたんです。なのでそういう「もうどこにも行けない」という作品を1回やっておけば、これからは何でもできるかなあ、と。なので次からは、ある種ヤケクソになる…というと変ですけど、割と突拍子もないあれこれができるんじゃないかと思います。
(構成:吉永美和子)